1、大島の風

 大島の年平均風速は4.9m/sで全国のアメダスで風の観測をしている800地点のうち16位、かなりの強風地域といえよう。また、風向は年間通しての北東の風(ナライ)と、冬季の西南西の風(ニシ)、春から夏にかけての南から南西の風(ナガシ)がほとんどで、南東や北西の風はまれである。


大島の月別風向出現率(東京管区気象台HPより)


冬の季節風

日本付近の冬の季節風は一般に“北西の季節風”と呼ばれることが多いが、季節風の風向はどこでも北西というわけではない。北海道や東北では西風、南西諸島方面では北東の風になることが多く、季節風が北西風になるのは関東から九州の範囲に限られる。では、大島はどうかというとこれがなかなか難しいことになっている。

気象庁HPより

上の二つの天気図から大島の風向・風速を考えてみよう。
2009年と2010年の同じような冬型の時の天気図だが、実際の大島アメダスの観測値は
左図 2009年1月2日9時  東南東   2.1m/s
右図 2010年1月14日9時 西南西   6.2m/sだった。
左図の方が冬型としては強そうだが、右図の時に強い西風が吹いている。左図と右図を見分けるポイントはどこにあるか。それは大島付近の等圧線の走向にある。
左図の等圧線の走向は 北―南
右図の等圧線の走向は 北北西―南南東

右図のような時には西風の強風域が相模湾の奥まで入り込むが、左図のように等圧線の走向が南北の時には、新島以南が西の強風でも大島付近は北東の風になる。この違いを天気図から予想するのはなかなか難しいのだが、33時間予報MSM(Mesoscale Spectral Model)はかなり正確に予想している。

収束線

ところで、このようなほんの少しの気圧配置の差から、なぜ全く反対といっていいような風の現況を生じるのだろうか。それには、大島と本州の地理的な位置関係が深く関わっている。 本州中央部に吹き付ける季節風の下層流は、中部山岳が障壁となって西回りと北回りに分流し、西回りは若狭湾から伊勢湾を吹き抜け、北回りは上越国境の山脈を越えて関東平野を吹き抜け、伊豆諸島北部付近で合流しそこに収束線を形成する(右図)



気象庁HPアメダス画像に積雲列を加筆 左図と同時刻に大島一周道路、海のふるさと村降り口付近から見た積雲列

その収束線は、房総沖前線(1)、伊豆諸島北部収束線(2)などと呼ばれ、昔からよく知られている。上空の寒気が強い時には収束線付近に積雲列が発達してその下ではにわか雨やあられを伴っていることもあるが、寒気が強くない時には雲が無く晴れていることもある。また、積雲列をその形状から、ならいの土手、と呼ぶこともある。収束線の北側は北東の風、南側は西よりの風になっている(左上図)。従って、収束線が大島の南にあれば北東風、北にあれば西よりの風になり、収束線が移動して大島を通過する時には風向が急に変わることになる。
(1)  吉野正敏:小気候、地人書館
(2) 加治屋秋実(1996):伊豆諸島北部に発生する地形性収束線の移動機構、気象庁研究時報 48

カルマン渦列

虎落笛(もがりぶえ)とは、木枯らしが電線や竹垣などに吹き付けた時に発生する風の音だそうだ。風が障害物の後ろに交互に渦を発生させるので、その結果、振動が発生して音が出る。その渦の列をカルマン渦列という。空気は透明なので、普通、私たちはそれを目で見ることはできないが、冬型の気圧配置の時、東シナ海チェジュ島の風下にカルマン渦列が発生することがあって、気象衛星の画像でその様子を見ることができる(下図)。日本付近では、この他に海洋上の孤立峰である屋久島や利尻島などの風下でも発生することが知られている。 野球、サッカー、テニスなどの球技では、ボールが無回転だと後方にカルマン渦が発生し、コースが不規則に変化して相手を大変困らせることになる。

 カルマン渦列


目次へ戻る