2、台風

台風は赤道より北、東経100度と180度の間にある熱帯低気圧のうちで、最大風速が17m/s(34ノット)以上のもの、と決められている。つまり、東アジアに影響する熱帯低気圧の強いもの、ということになろうか。

ドボラック法

ところで、台風の中心気圧や中心付近の風速はどのようにして観測するのだろうか。実は1987年8月まではグアム島の米軍による飛行機観測で直接測定していた。しかし、飛行機観測が廃止されたため、現在では直接中心気圧や風速を測定しているわけではない。衛星画像を用いた「ドボラック法」という間接的な方法を基本にしている。

「ドボラック法」とは、気象衛星が打ち上げられて画像が得られるようになり、まだ飛行機観測も行われていて両方のデータが得られていた時期に、アメリカの気象学者ドボラックによって開発された方法である。ドボラックは、衛星画像から得られる雲のパターンと台風の勢力に一定の関係があることに目をつけ、衛星画像から台風の勢力を推定するマニュアルを作成した。この方法が十分信頼できると認められ、更に改良を加えられて、現在では危険を伴う飛行機の観測をせずに、台風の強さを推定するのに用いられている。
 素人でも、中心の目の形が小さくはっきりして丸ければ強い台風、目がはっきしりなくなり広がってくれば衰弱期といった程度のことは見当がつく。もっとも、最近では更に正確さを追求して飛行機観測を復活させようとする動きもあるようだが。

風と雨の極値

大島の1位の記録は当然ながら台風によるものが多い。
        (1948年台風21号をT4821のように表記する)

  • 最低気圧 942.7hPa 1948/ 9/16 T4821 (アイオン台風)
  • 最大風速 39.0m/s  1948/ 9/16 T4821(アイオン台風)
  • 最大瞬間風速 57.0m/s 2005/ 8/25 T0511
  • 24時間降水量 824.0mm 2013/10/15 T1326  (15日から16にかけて)
  • 1時間降水量  122.5mm  2013/10/16 T1326
  • 10分間降水量 29mm   2003/ 7/24 梅雨前線

強風による災害の例

記憶に新しい? 2002/10/1、バハマ船籍の自動車運搬船「ファル ヨーロッパ」(56,835t)が座礁した(下図)。当日、大型で非常に強い台風21号が通過中で、台風を避けるため横浜港を出航し駿河湾に向かっていた同船は、強風や高波で機関が停止して漂流、自動車3,885台を積んだまま大島の波浮竜王崎灯台の下に座礁、重油が流出して漁業被害が出た。

 座礁した自動車運搬船 事故翌日撮影

高潮

台風は、強風、高波、大雨などによって様々な災害をもたらすが、過去の台風災害のうち最も大きな被害をもたらしたのは、伊勢湾台風、室戸台風など高潮によるもであろう。

高潮とは、気圧の低下や強風などによって平常より潮位が異常に高くなる現象である。高潮を発生させる主な要因は

  • @ 気圧の低下による海水の吸い上げ
  • A 強風による海水の吹き寄せ
  • B 砕波による海水の輸送
    とされている。

この他に、潮流・海流によって潮位が異常に高くなることもある。これは異常潮位などと呼ばれることが多い。この場合も災害が予想されるときには高潮注意報・警報が発表されることがある。これについては潮位の項で述べる。 さて、

@の気圧による海水の吸い上げ効果については理解しやすいのではないだろうか。コップのジュースをストローで飲むときのように、気圧が低い部分の海水が吸い上げられる。その高さは1hPaにつき1pである(1気圧=1013hPaが水圧10m分に相当するから、割り算すればよい).。前記大島の最低気圧942hPaの場合、それだけで70cmの潮位上昇がある。

 Aの強風による海水の吹き寄せ効果は、海水の逃げ場がない湾の奥で大きくなる。台風の風が左まきの渦であることと、日本に上陸するときには進路が南から北に向かっていることの結果、台風が本州の南に開いた湾、東京湾、伊勢湾などの西側を進むときが危険とされている(下図)。小さいが大島唯一の湾、波浮は南東の向きに開いた湾で高潮がよく発生する(右図)。台風接近の度に波浮の消防団員は高潮防止柵設置のために招集をかけられる。
  1949年8月27日 T4910(キティ台風)によって、波浮港では堤防工事基準面上約5mの高潮が発生して甚大な被害を被った(堤防工事基準面とは、ほぼ最干潮位にあわせて設定された基準なので、通常の満潮潮位より3.5m程度高かったといえる)。大島も高潮に無縁ではない。

  @ 枕崎台風
    鹿児島湾
    広島湾

A 第2室戸台風
    大阪湾

B 伊勢湾台風
    伊勢湾

C キティ台風
    東京湾
    波浮港
高潮被害をもたらした台風のコース 

Bの砕波による海水の輸送効果。沖から海岸に波が寄せてきても、海水が押し寄せてくるわけではない、とお考えだろうか。十分水深のある沖合の波についてはその通りだが、海岸付近で砕ける波は海水を沖から岸に向けて運んでくる。寄せては返す波がプラスマイナスゼロではなく、寄せた分だけ返さないのだ。その結果、海岸に近い海面は水位が高くなるが、どこかで沖に向かう流れができて適当なところで平衡状態になる。この沖に向かう流れは、離岸流、リップカレントなどと呼ばれ、砂浜での海水浴などではこれに流されないように注意しなければならない。もし流された時は岸に向かってではなく、横の方向に泳いで離岸流から脱出すべきである。
 台風接近時、巨大な波が次々と押し寄せる砂浜では、砕ける波が海水を岸に向かって輸送して遠浅の海岸で高潮が発生することがある。1979年10月19日、台風20号による高波のため、神津島では前浜全体に高潮が発生し、前浜港の験潮所は229pの観測史上最高潮位を記録した(下図)。

1979年10月4日 神津島前浜の高波と高潮
   通常の前浜


このとき大島では、高波のため元町港桟橋の先端にあった灯台が破壊され海に没した。

なお、この台風T7920は、南海上にあるとき870hPaという観測史上最低気圧を記録した超大型台風で、全国で死者行方不明者66名を出す被害があった。
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